小島宏之の小説

 ゆずかちゃんの最新作を読めます。

お題「#この1年の変化」

 ドイツ連邦を名乗る、プロイセンのネオナチをどのように消去するか悩んだ。第三次世界大戦しかない。変化なし。
 it 業界が私を敵に回し始めた。裏切りと判断する。精神薄弱の邪宗派と戦わなければならない。南はきっかけに過ぎない。昨年の一番大きな変化だ。いつまでも私に敵対するようなら処分する。覚悟しておけよ。お前たちの決めた基準など知らん。我が家臣は餌を求めている。

小説『ゆずかとミニスカート』第一話

 

 ミニスカート、きっと好きだと言うだけで男の子は軽蔑される丈の短いスカート。二十世紀も半分を過ぎてから産み出されたので歴史は浅い。着熟し方にもよるが生足を露にすることで女性の解放を意味するそうだ。一部の少数派が愛用するだけなら問題にはならなかった。しかし大多数が着用するとなると話は別だ。好むと好まざるとにかかわらず着用しなければならなくなる。本人の意思に反して履いている女の子も多いはずだ。歴史が浅いのに迷惑千万だ。これは、ミニスカートに反旗を翻した少女の物語である。多分ね。

 ゆずかはミニスカートが苦手だ。
 生足にミニスカートを履くと、おしっこが近くなるからだ。この他、生腕を出した服を着て風邪を引いたことがある。お臍を出した服を着て、お腹を壊したことがある。
 はしたない服装は見ただけで頭痛がする。
 虚弱体質ではないが頑強な体の持ち主でもない。至って普通の女の子だ。頭は良過ぎず悪過ぎず。試験の成績は全科目、平均点だ。
 ヘタレで流されやすい性格だ。
 ゆずか最大の悩みは高校の制服だ。現在、中学一年生のゆずかは将来高校に進学する予定だ。しかし近隣の高校の生徒は皆スカートを短くして履いている。
 生足を出して道の真ん中を闊歩する姿は醜悪その物だ。校内では校則等で禁じられている為、膝下まで長くして履いている。しかし校門を一歩出ると膝上まで上げてしまう。
 ゆずかは、スカートを上げ過ぎて、パンツが丸見えになった女子高生を見たことがある。本人は気付かず平然と歩いていたのが印象的だった。男性の好奇な目線に晒された女子高生を、ゆずかは呆然と見送ることしか出来なかった。
 「ゆずかちゃん。ミニスカートの悪口は、いけませんわ。これは、文部科学省と教育現場の認識のズレが原因、ですどすですだすわん」
 意味不明な言葉使いでゆずかに注意を喚起するのは親友の、ゆいだ。
 ゆいは、ミニスカートが女の子を精神的に解放した自由の象徴だと断言する。太股を露にすることで女性の心を解放したのだそうだ。
 「ゆいちゃん。蚊に刺されるよ」
 ゆずかとゆいの住む街、神奈川県横浜市金沢区能見台は能見道緑地と呼ばれる緑地帯がある。緑豊かな環境は住む人を魅了する。豊かな自然は蚊や雀蜂等の生息地帯であることを意味する。
 「蚊、蚋、虻、雀蜂、熊蜂、恐怖の大魔王降臨だすですわんわん」
 蚊も蚋も虻も吸血昆虫だ。血を吸う時に伝染病を媒介する可能性がある。マラリアフィラリアデング熱、黄熱病、脳炎等々とぉー。
 「ゆいちゃん。難しい漢字には、振り仮名を付けてね」
 読者サービスに励むゆずかであった。
 「ゆずかちゃん。雀蜂と熊蜂の、アナフィラキシーショックの方が、振り仮名よりも大切ですわん」
 能見道緑地では毎年、雀蜂や熊蜂に襲われる被害が発生して死者も出ている。
 「ゆいちゃん。高校生になったら、嫌でもミニスカート履くことになるよ」
 自由、解放、平等、何処かの国の国是のような言葉が、ミニスカートと一体化している。履かない訳にはいかない。
 「ゆずかちゃん。吹奏楽部のスカートは、丈が長いですわん」
 吹奏楽部は楽器を演奏する際に股を広げることがある。ミニスカートでは、スカートの中が丸見えになる。これを防ぐために丈が長い。
 吹部丈と呼ばれるが、ミニスカートを履きたくないだけで吹奏楽部に入部するのは無理だ
 「ゆいちゃん。吹部って、すんごい厳しい部だって知ってた」
 根本的な解決策には程遠かった。そもそも、スカートの丈を少し長くしただけでは蚊も蚋も虻も雀蜂も熊蜂も防ぐことは出来ない。
 「ゆずかちゃんは、どうしたら良いのですわん」
 ゆいは語尾を、『ですわん』で統一するようだ。
 「新しい制服を、企画するんだよ」
 ゆずかは鞄からノートを取り出した。
 「ゆずかちゃん。そういう時は、ノートパソコンとか、タブレットとか使うと便利ですわん」
 ゆずかは目を輝かせた。
 「ゆいちゃん。凄いの持ってるね」
 ゆいは胸を張って満面に笑みを浮かべた。
 「持っていませんですわん」
 ノートに色鉛筆で描くことになった。
 「ゆいちゃん。先に、カステラ食べようよ」
 ゆずかの住む街には海の近くに食品工場が沢山ある。
 「これは、アウトレットモールでは売っていない。某有名メーカーのカステラ切り落としですわん」
 工場直営の小さな売店では正規店で販売出来ないカステラの切り落とし等を来店者に配っている。
 「ママが図に乗ってね、ちょこちょこ行って貰って来たの。冷凍庫の半分以上が、カステラの切り落としだよ」
 ゆずかは朝、冷凍庫の中から氷を出そうとして愕然とした。
 「久しぶりに、ゆずかの魂が空中浮揚したよ」
 ゆずかの朝食は、カステラの切り落としだった。食べてくれないと困るという雰囲気だった。